[ラブラドール・レトリバーの起源 その2]


[その2:素質の継承 〜F1 (ラブラドール/ゴールデン・レトリバー) レトリバー]


現在、日本国内で盲導犬として使用されている犬のほぼ90%以上はラブラドール・レトリバーです。
欧米の盲導犬の場合、ラブラドール・レトリバー70% ゴールデン・レトリバー15% ジャーマン・シェパード15%と、依然高い比率でラブラドール・レトリバーが重用されていることが判ります。
海外ではこれらの犬種以外にも、盲導犬として実働している種は多く存在しますが、その中で日本でも海外と同じく実働の歴史が長い犬種、「F1」※4というレトリバー、「ラブラドール・クロス・ゴールデン・レトリバー」についてご紹介いたします。

「F1」とは、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリバーの第一世代のみのクロスで誕生した個体で、性質面および健康面での有益性から、英国は1930年代の盲導犬事業開始当初より「F1」を導入しています。
欧州・欧米はもちろん、日本でも数十年前から、「F1」は既に盲導犬として導入されていたものの、ラブラドールほど実働数も多くない事情もあって、これまであまり知られていませんでした。
しかし、ラブラドールとゴールデンの区別が一般的に認知されるにつれ、「F1」も近年徐々にその名称と存在が周知されるようになってきました。

前述の通り、ラブラドール・レトリバーは、もともと最初からラブラドールとして存在した犬種ではありません。
ラブラドール州・ニューファンドランドにいたセント・ジョーンズ・ドッグらが、交易のあった英国に渡り、人の介入によりアウトクロス※5し、長い月日をかけ誕生した種です。

19世紀初頭、当時英国では貴族の間で狩猟が大流行していました。ニューファンドランド、セント・ジョーンズ・ドッグの秀でた知力、特にソフトマウス※6で、レトリーブ(回収する)繊細な能力や、水中での敏捷性は、「最高のシューティングドッグ」と言わしめるほど、目を見張るもので、感銘を受けた貴族たちは当時すでに希少であったこの犬種(短毛・中型のニューファンドランド)を早速英国に輸入し、繁殖に着手していきました。

何故、短毛で中型を選択したかは、狩猟のサポートを行うには、あまり大きな体躯でなく、また水中で多く活動 する犬の動作を考慮し、長い毛でないほうが良いという合理的な理由がありました。
こうして血統を維持しつつ、 資質を重視しながら、慎重な交配・繁殖が行われました。
この取り組みは、1800年初期から後期まで続き、 1870年頃、ラブラドール・レトリバーの名は、英国では一般的となっていました。
その後20世紀初頭1903年、 英国のKCに認められ、欧州の品種として、世界中に普及していくこととなります。

ラブラドール・レトリバーの祖といわれるセント・ジョーンズ・ドッグはすでに絶滅※7してしまいましたが、ラブラドールの血統を維持するためケンネルを創設し、犬の「素質の継承」に情熱を注いだマームズブリー伯※8やバックルー公爵※9、またゴールデン・レトリバー誕生に貢献したトウィードマウス卿※10らをはじめとし、先人たちの先見性と、およそ100年に及ぶ地道な取り組みがあればこそ、21世紀に生きる私たちは、聡明な友人ラブラドール・レトリバーやゴールデン・レトリバー、そしてラブラドール・クロス・ゴールデン・レトリバー、「F1」に出会うことができました。


※4
「F1」またの名をF1レトリバーとも呼称される。雄ラブラドール、雌ゴールデンによるクロスで誕生した個体。
いずれも第一世代のみのクロスで、血統はすべて厳密に管理されており、通常雑種とは性質が異なる。
欧米では、第一クロスラブラドール/スタンダードプードル、第一クロスボーダーコリー/ゴールデンレトリバーなどもいる。

※5
異系交配の意。

※6
ソフトマウスは、獲物に歯形がつかない様にそっと(卵などを割らずに)咥えることをいう。
(注意:専門のトレーナー・熟練者、有識者による高度な訓練を要するものです。ご家庭では絶対に真似をしないで下さい。)

※7
1830年代には、すでにセント・ジョーンズ・ウォータードッグは希少な種であった。1880年に絶滅。
1970年代後半にオリジナルの雄2頭が発見されたが、どちらも12歳を超える高齢であった。

※8
ジェームス・ハリス 初代マームズブリー伯爵(1746年4月21日-1820年11月21日)
英国の貴族、外交官。18世紀最大の英国の外交官とも評される。
ジェームズ・エドワード・ハリス マームズブリーの第2代伯爵。(1778年8月19日-1841年9月10日)

※9
ウォルター・モンタギュー・ダグラス・スコット 第5代バックルー公爵(1806年-1884年)
英国の貴族、政治家。王璽尚書や枢密院議長を歴任。ガーター勲章勲爵士。
(王璽尚書:イギリス政府の伝統的官職。国王の御璽の管理及び、それに関連する行政事務を司る職。)

※10
ダドリー・クーツ・マージバンクス、トウィードマウス男爵(1820年12月29日-1894年3月4日)
ゴールデン・レトリバー誕生に尽力した人物として知られる。


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